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らりほぅの10代でも分かる行動経済学『ナッジ理論』

らりほぅの10代でも分かる行動経済学『ナッジ理論』

YouTube食育番組「らりほぅチョイス」プロデューサー、らりほぅです。

ここでは、経営者・学生・主婦の皆様が「未来のこれから」について考えるマーケティングや脳みその準備体操となるような記事を配信しています。どうか最後までご覧ください。

nudge(ナッジ)とは、何か?

nudge(ナッジ)は、2003年に米・シカゴ大学のリチャード・セイラー教授らによって提唱された行動経済学の理論だ。

経済インセンティブでない新しいモチベーションと言えばわかりやすいだろう。行動科学・社会学・心理学などの知見に基づいて、ヒトが社会、環境、そして、なにより自分自身にとって、ポジティブな行動を自発的に選択するように促す仕掛けである。

注目された背景には【費用対効果の高さ】にある。
実際に、イギリス、カナダ、アメリカ、オランダ各国の公共政策での活用しており、経済学者でもあるリチャード・セイラー教授は、2017年にナッジの活用に関して、ノーベル経済学賞を受賞した。

男性が1度は経験のあるアレも、nudge

ナッジを使った最も有名な成功例の1つが、「トイレ」。

オランダのスキポール空港の例がよく掲載されるが、小便器の中央に小バエを描かれたデザインがある。「なるほどな」と思って、私も海外出張の際に、思わず撮影したくなったが、トイレでカメラを取り出す勇気がなくて心に感心を留めておいた。

自然と男性はハエを狙って、おしっこをする傾向にあるので、尿の飛び散りが減少。大幅な清掃費削減に成功したと言われている。
つまり、【的があると当てたくなる心理】を巧みに利用している。(*1)

コンビニやスーパーで地面に描かれている足跡に合わせて、自然と整列するのも、nudge。

別に足跡と同じ位置に立たなくてもいいのに、どうしても書かれたところにポジショニングしてしまう。それが、なんとなく気持ちがいいから。
ちなみに、これは海外の人が驚くポイントでもあるそうだが、日本人は特に、そういう規律を守るタイプなので、自然と行列がキレイに仕上がる。
nudgeに準ずる日本人を誇りに思う。

「気づかないくらい粋なパス」が、nudge

nudgeの英訳は、【そっと後押しする】、【肘で軽くつく】の意。
ちょっと気の利いた、さりげない微力な「促し(サポート)」によって、人の行動を変容することができる戦略である。
では、10代の学生にとってnudgeは、どんな時に使えそうか。

授業中でもnudgeを活用できるタイミングがありそうだ。
例えば【授業中に寝ているY君に合図を送る】シーンを想像してほしい。

 

漢文の授業中、目の前から先生が、ツカツカ歩いてくる。
ヤバい。どうみても、寝ている隣のY君の頭を叩きに向かっている。
寝ているY君に「おいっ!」と肘でついて、強引に目を覚まさせる。
でも、この方法は、nudgeじゃない。
なぜなら、Y君は自発的に起きていないし、眠りから覚ます方法がわりと【強制的】だからだ。

 

では、Y君の携帯に電話をして、鳴らしてあげたらどうだろうか?
Y君はポケットの携帯のバイブレーションに気がついて、瞼をこする。自然に眠りから目が覚めて、我に返ったY君は、涎で湿った教科書を捲る。先生は舌を鳴らして振り返り、教壇へと戻った。セーフ!
これは、nudgeだ。

 

何故なら、自発的にY君が起きるように「促し」ているからだ。
あなたの粋なパスによって、Y君は行動を変容できた。
そして、Y君は先生から頭を引っ叩かれるリスクを回避できた。
nudge、意外と使えるでしょ?

社会がnudgeを活用するワケ

いま、環境省は日本版ナッジ・ユニットBESTの事務局を担っている。そこにはSDGsの目標達成に向けて厳しい現実が見え隠れもしていそう。

日本の政府・各企業が2030年に向けてSDGsへの取り組みを実践しているが、世界20カ国・地域におけるSDGsの平均認知率が51.6%に対して、日本では14.8%という認知率の低さが電通の調査で分かっている。(*2)

 

つまり、SDGsは国が定めた目標だけれど、実際の社会に、私たちの生活パターンに落とし込めていないのが現状なのだ。だから、社会がnudgeに着目し始めた。

実際に、各自治体の行政でも取り入れ始めている。
例えば、沖縄県浦添市。

 

浦添市の福祉健康部健康づくり課は、クラウドサービス「べタ―ミ―」(*3)を活用して、市民自身が自発的にがん検診、予防接種、防災、コロナウイルス感染症に対する行動知識の情報を発信した。この取り組みに、ナッジ理論を活用することで大腸がん検診の受診率が向上した。(目標達成率は184.2%)

 

実際の文面の工夫として、どの辺がnudgeなのか挙げてみた。

  • 大腸がんは早期自覚症状がなく、女性のがん死亡率1位、男性3位

→具体的で数字を伴う文章は、当事者意識が喚起される

  • ★月★日までがん検診が行われます。●月●日まで予約可能です

→行動指示が具体的で、わかりやすく次のアクションが理解できる

  • 浦添市民は●●円相当の検査を●●円で受けれられます

→経済的利得により、行動を促している

そもそも、「がん検診」や「人間ドッグ」のような類は、強制するものではない。リスク回避をするかどうかの判断は、自分自身の意識に問われているからだ。しかし、早期発見により命が救われることがある重要な行動であっても、人は緊急性が低いと、物事を後回しにしがちだ。

そこで、個人個人の“意識”→“行動”を変えるまでの道のりが長いものや、行動変容の手段が硬直化しがちの課題解決をするために、こうしたナッジ理論は有効なのだろう。

研究結果・考察

私は、大学では社会心理学と教育心理学を専攻しました。そして、現在ブランディングの仕事をしていますが、コミュニティや企業の中でチームをデザインすること、大学生のインターンを育てることで脳みそが凝ります。人の行動や心理を考えて受け取りやすいパスを出すためには、脳みそのストレッチが欠かせません。

 

皆さまも脳みそが解れて、無意識に醸し出した戦略のいくつかは、気づけばnudgeだったということが、きっとあるでしょう。理論を提唱した人は学者さんですし、専門用語にすると何だか聞こえが難しいけれど、別にナッジ理論って私たちの身近に存在していますよね。#おうちじかんを楽しくする方法だって、気がつけばナッジ理論が見当たります。

面白いですね。

総論として、nudgeとは「人の思考のクセや心理を活用した、選択肢を提示する手法」と言い換えることができそうです。

 

■注釈
(*1)リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン(遠藤真美訳)『実践 行動経済学』(日経BP、2009年)
(*2)電通、「SDGsに関する生活者調査」を実施
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0404-009518.html

(*3)データアナリティクスとナッジ理論を用いて公的通知を自動化。最適化するクラウドサービス

 

(著・らりほぅ/YouTube食育番組「らりほぅチョイス」のプロデューサー)